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大阪地方裁判所 平成6年(わ)2913号 判決

本籍

韓国

住居

大阪府東大阪市衣摺五丁目六番一〇号

会社役員

湯山鳳龍こと兪鳳龍

一九五一年一一月二三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官濱田毅出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年四月及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府東大阪市衣摺二丁目一八番一一号において、「鳳ブロー成型工業所」の名称でプラスチック成型加工販売業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  平成二年分の総所得金額が九二四一万六五五八円であった(別紙1の1の修正損益計算書参照)のにかかわらず、実際の所得金額には関係なく、ことさら過少な所得金額を記載して所得税確定申告書を作成し、その所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一二日、大阪市平野区平野西二丁目二番二号所在の所轄東住吉税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が七二一万六五〇〇円で、これに対する所得税額が六三万〇二〇〇円である(但し、申告書には、計算過誤により五六万〇二〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四一二〇万〇五〇〇円と右申告税額との差額四〇五七万〇三〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第二  平成三年分の総所得金額が七三五二万一二一六円であった(別紙1の2の修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、前記所轄東住吉税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が七三六万四〇〇〇円で、これに対する所得税額が六五万九八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三一七五万三〇〇〇円と右申告税額との差額三一〇九万三二〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れ、

第三  平成四年分の総所得金額が八七六八万四六七〇円であった(別紙1の3の修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により、その所得の一部を秘匿したうえ、平成五年三月九日、前記所轄東住吉税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が七四八万四〇〇〇円で、これに対する所得税額が五四万九八〇〇円である(但し、申告書には、計算過誤により四七万九八〇〇円と記載)旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三八五〇万円と右申告税額との差額三七九五万〇二〇〇円(別紙2の税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(七九、八〇)

一  高屋弘の検察官に対する供述調書(七八)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五四通(記録第一八-一号(九)、同第一八-四号(一一)、同第一八-六号(一三)、同第一八-七号(一四)、同第一八-五八(一五)、同第一八-六〇号(一七)、同第一八-二号(一八)、同第一八-四九号(二〇)、同第一八-五一号(二一)、同第一八-五三号(二二)、同第一八-五五号(二四)、同第一八-五六号(二五)、同第一八-五七号(二七)、同第一八-六八号(二九)、同第一八-六六号(三〇)、同第一八-六七号(三一)、同第一八-六五号(三二)、同第一八-六九号(三三)、同第一八-七一号(三四)、同第一八-七三号(三五)、同第一八-七四号(三六)、同第一八-七五号(三七)、同第一八-七〇号(三八)、同第一八-七二号(三九)、同第一八-七七号(四〇)、同第一八-七六号(四一)、同第一八-七八号(四二)、同第一八-七九号(四三)、同第一八-八〇号(四四)、同第一八-八三号(四七)、同第一八-六三号(四八)、同第一八-八号(五〇)、同第一八-二九号(五一)、同第一八-九号(五二)、同第一八-一六号(五三)、同第一八-一七号(五四)、同第一八-一八号(五五)、同第一八-一九号(五六)、同第一八-三四号(五七)、同第一八-三〇号(五八)、同第一八-二〇号(五九)、同第一八-二一号(六〇)、同第一八-二二号(六一)、同第一八-二三号(六二)、同第一八-二四(六三)、同第一八-二五(六四)、同第一八-二六号(六五)、同第一八-二七号(六六)、同第一八-二八号(六七)、同第一八-三七号(六八)、同第一八-四一号(七〇)、同第一八-四二号(七一)、同第一八-四四号(七三)、同第一八-四五号(七四))

一  大蔵事務官作成の「所轄税務署の所在地について」と題する書面(八)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第一八-八二号)(四六)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第一八-五号)(一二)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一二日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二通(記録第一八-五九号(一六)、同第一八-八一号(四五))

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三通(記録第一八-五二号(二三)、同第一八-四七号(四九)、同第一八-四六号(七五))

一  大蔵事務官作成の証明書(平成四年三月一六日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(三)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第一八-五四号)(二六)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成五年三月九日に申告した所得税の確定申告書写についてのもの)(七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が平成四年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(四)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年四月及び罰金二五〇〇万円に処することとし、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、プラスチック成型加工販売業を営んでいた被告人において、三年度にわたり、合計一億九六一万円余もの所得税をほ脱した事案であり、ほ脱額自体高額であるうえ、ほ脱率も三年度平均で約九八・三パーセントと極めて高率な脱税事犯であって、申告納税制度の根幹をゆるがすとともに、国家の課税権を侵害し、かつ、納税者の税負担の不公平感をも増大させかねない反社会的な犯行である。そして、被告人は、搜査段階の供述によれば、具体的な額は別として、多額の所得が生じていることを認識しながら、同業者の申告状況を聞くなどして、「自分だけ正直に所得を申告して多くの税金を納めるのは馬鹿馬鹿しい」等と考え、実際の所得額とも関係なく、前年の申告額に若干の上乗せをしたのみの、ことさら過少な所得額及び税額を虚偽申告したもので、その納税意識の欠如を示す犯行でもあって、被告人の責任は相当重いというべきである。

しかし、他方で検討すると、本件における所得秘匿の方法は、いわゆるつまみ申告であり、被告人において、積極的な所得秘匿工作などを行なったことは認められず、ほ脱所得の大半は被告人自身あるいは親族名義で預金して留保しているなど、その脱税の態様は比較的単純なものであること、また、被告人は、本件摘発後、事実関係を素直に認め、反省態度にも真摯なものがあり、本件ほ脱に関し、加算税、延滞税等の付帯税に加えて、事業税等のその他納税についてもその納付を済ませていること、さらに、現在、事業を法人化し、新たに依頼した税理士の指導のもとに適正な税務申告に努める旨を誓っていることなどの量刑上被告人のために考慮すべき事情もある。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮し、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処し、懲役刑については、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙1の1 修正損益計算書

別紙1の2 修正損益計算書

別紙1の3 修正損益計算書

別紙2 税額計算書

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